空き瓶ロマンス
思い出せる限りの事を、必死に。
緊張しすぎているのか慌てているのか、時々どもったり噛んだりしながら。
耳を傾けている私の中で、エピソードの一つ一つが鮮明に蘇っていく。
母は、いちいち嬉しそうに、「まあ……」と顔を綻ばせている。
その中で兄は、私をたくさん褒めていた。
倫子が家事をやってくれなければ、何もかも成り立たなかったよと。
全部自分では当たり前なつもりだったから、大したことじゃないとつい見栄を張ってしまった。
そんな私の意地にさえも、母は微笑んでみせるのだった。
兄は、私に「倫子も何か言いなよ」と促した。
私は、これから死んでしまう人にさえ笑顔を向けられるくらい大人になりきれなくて、
かといって、怨念たっぷりに睨みつけてみる事もできなくて、
多分、とても微妙な表情でいたのだと思う。