空き瓶ロマンス



自分でも何が言いたいのか分からなかった。
 
嬉しいのか、苦しいのか。
 
悲しいのか、怒っているのかさえ……。
 
母は、はっとした表情をして、泣かないように唇を噛み締めながら、頷いてみせた。

その目からは涙がとめどなく流れていたけど、

何となく今の涙は、流していい涙だと思った。
 

それから母は、突然目を閉じて動かなくなった。

兄がびっくりしてナースコールを押してすぐ、廊下で待機していたらしい看護士達が騒ぎを聞き付け、ベッドに突進してきた。


死んだのかと思って、怖くなったけど、本当にただ眠っていただけなようだった。



帰り際、母の夫――斎藤さんという男の人と挨拶をした。

大柄で声が大きくて少々がさつな印象で、

父とはほとんど真逆のタイプの人だったけど、目はとても優しかった。


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