空き瓶ロマンス
帰り道は、完全に日が暮れていた。
私達は家を目指してとぼとぼと歩きながら、喋ったり黙ったりを繰り返していた。
黙っている間、私はきっとこれが、
「今生の別れ」ってやつなんだろうと、半分本気で覚悟していた。
兄は、また母の容態が安定したら来ようと言っていたけど、どうしてだかそれは叶わない気がした。
実際、母はかなりの無理をしていたのだと兄が話した。
連日吐きっ通しで、とてもじゃないけど物なんか食べられなくて。
いつも、いつでも全身が切り刻まれるように痛むのだと聞いた。
ガンとは、そういう病気でもあるのだ。
「倫子……疲れちゃったか?」
歩くのが遅かった私を気遣って、兄が振り返った。
兄の表情が、はたと変わる。