空き瓶ロマンス
「………」
兄は、何も言わずに私の手を繋いで、再び歩き始めた。
今度は私の歩調に合わせて、ゆっくりと。
泣いてるのが、ばれてしまった。
もう真っ暗だから。
電燈もまばらだからと油断していた。
自分でも何で泣いてるのか分からなかった。
大嫌いだった母が死ぬから嬉しいのか。
やっと会った母が病人でもうすぐ確実に死ぬから苦しいのか。
顔すら知らなかった母が、勝手に死んでしまうから怒っているのか。
大好きになれたかもしれない母が死んでしまうから悲しいのか……。
変に指先から力が抜けて、肌が粟立った。
怖い。
人が死ぬのは、怖い。
死んでしまうのが、自分を産んだ人だから。
余計に怖い。
「順番」だなんて割り切れない。
だって『母親』は、この世に一人しか、いないから……。