過去作品集○中編

『あ、そーだ』

昇降口にまで来て、ふと千里のもう一つの話を思い出した。

『誠、美恵先輩と付き合ってんだって』

そう。
誠の話だ。

『ってか、私と付き合ってる間もコソコソ会ったりしてたみたいだし』

『そうなの?』

『うん。 私が浮気したみたいに言われてフラれたのも意味不明なんだけど』

こっちは本気で好きだったのに。
誠はずっと美恵先輩がよかったんだ。

私のファーストキス。
私の初体験。

誠なんかにあげなきゃ良かった。

そしたら全部、吉見に……

『え、あ、嫌だ……』

涙が勝手に出てくる。
ボロボロ止まらない。

あんな奴のために泣きたくないのに!

『そんなに、あいつが好きなのかよ』

『……違っ……』

「違う」
そう言いたかったのに、言いかけた唇が、吉見のキスで塞がれる。

突然で、全て奪われそうな強引なキス。

吉見じゃないみたい……

『あいつ最低だよ』

『……え?』

「あいつ」って誠……?
何だかいきなりすぎて、頭が上手く回らない。

『自分が手ぇ出して面倒になった女の処理、俺に頼むんだもん』

……何?
何それ。

どういう事?

『夏乃と別れるために、俺を利用しようとしたんだぜ?』

駄目だ。
頭が真っ白……

何も言葉が浮かばないよ。

『つーか、いつ気付くの?』

『え?』

『あいつ、俺の兄貴なんだけど』

兄……貴?
誠が吉見の?

そんな事って……

でも最初に吉見を見た時、誠に似てると思ったんだ。

体つきや、顔の造り。
声だって、吉見のが高いけどどことなく似てる。

『弟……なの?』

『そうだよ。 こんな形で言うつもりじゃなかったけどね』

そんな……
そんなのってないよ……
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