過去作品集○中編
吉見が去った後、いつもより重く感じる足を引きずるようにして教室へ向かった。

目的は吉見のロッカー。
吉見はいつも教科書を置きっぱなし。
だからきっとあるはず。
ここに、吉見のフルネームが……

『これだ』

吉見の名簿番号を表す3の数字が書かれたロッカーを恐る恐る開ける。

中には教科書や体育館シューズ。
そして飲みかけのお茶。

『はは、最悪。 持ち帰れっての』

このお茶、明日には飲めないからね?

半分ふざけながら……
ってかふざけなきゃやってらんない。

【加藤吉見】
だって、この名の入った教科書達は、今の私にはきつい。

容赦なく傷付けてくるよ。

私って、本当に馬鹿……
吉見って苗字じゃないじゃん。


『……夏乃? 今、下で吉見に会って』

と、教室の戸が静かに開き、千里が入ってくる。

『ねぇ千里。 吉見、誠の弟なんだって』

『うん……』

千里は驚かなかった。

そうか……
千里が話そうとしてたのは、この事だったんだ。

馬鹿な私。
千里の話、ちゃんと聞けばよかったよ……







『今日、席替えなんだって』

次の日、精一杯に平気なふりをしてみた。
昨日、千里がタオルを濡らしてきてくれたから、目の腫れも治まってる。

笑顔もちゃんと練習したし。

『へぇ』

そんな私に対し、吉見は興味なさそうに返事をした。

「席替えなんてなくていいじゃん」
遠足に行く前はそう言ってくれたのに……


そうか。誠に頼まれてたんだもんね。
バレちゃった今は、私を好きなふりしなくていいんだ。

ってか、最初から好きじゃなかったんだ……
誠のために吉見は……


吉見の横顔見るの辛い。

甘い甘いバニラの香り……
バニラの香りがすれば誠を思い出した。

今はもう、吉見しか思い浮かばないよ……
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