過去作品集○中編
『皆! もう聞いてるかも知れないが、今日ついに席替えをしようと思う。 この間引いたクジ通りに移動してくれ』
チャイムと共に教室に入ってきた担任が言った。
皆それを聞くと、席を立ち、シブシブ机を動す。
今度の私の席は廊下側の一番後ろ。
吉見は、相変わらず窓際の一番後ろ。
私と吉見の間、4つも机が並んでるんだぁ。
まるで二人の気持ちを表してるみたい。
遠くて、寂しいよ……
『あ、夏乃』
放課後、日直の仕事で一人教室に残っていた私の前に、吉見が現れた。
『ま、まだ残ってたんだ』
『うん、掃除当番』
やっぱりいつも通りにはいかない。
私の周りだけ空気が重いよ。
息が詰まりそう……
『あ、あのさ。 吉見の名前って苗字みたいだね』
何とか気まずくないように笑顔を作る。
『よく言われる。 親父が「幸福がよく見えるように」って付けたらしいけど』
『あ、だから「吉と見る」なんだぁ』
ほんの少しだけど、吉見も笑ってくれてる。
恋人としては駄目でも、友達には戻りたい。
ちょっと図々しいかな?
『吉見に聞きたいんだけど、何で「兄弟がいない」なんて言ったの?』
少し他愛のない話をした後。
何気なく、吉見自身に探りを入れる。
『何度も言おうと思ったよ。 でも弟だって言えば嫌われそうで』
てっきり私を騙しやすいようにするためだと思ってたから、驚いた。
そういえば、一度だけ吉見が深刻そうな話を切り出した事があったような……
『俺、兄貴の弟ってだけで昔から「女好き」とか「チャラい」とか言われてきて…… それが嫌で、誰にも弟ってこと内緒にしてた』
吉見は、吉見なりに悩んでたんだ。
どうしても変わらない誠との関係に……
『……答えてくれてありがとう』
『夏乃……』
でも、どんな理由でも、吉見が私の所にくるわけじゃない。
もう恋人には戻れないんだ……