過去作品集○中編

『俺、一年前に駅で夏乃を見てから、ずっと好きだったんだ』

……覚えてない。
どんな出会い方をしたんだろう。

『駅で煙草を吸ってて、夏乃の友達と口論になってた男。 覚えてないかな』

駅?
煙草?
友達と口論って、まさか……

確かに、あれから一年が経つ。

あの暑い夏の日……

「あ、灰皿発見!!」

私達と同じ歳くらいの男の子二人が、駅のホームに入ってきた。

真っ先に喫煙所に向かい、嬉しそうに煙草に火をつける。
そんな姿が何だか可愛らしかったっけ。

「ちょっと、煙草臭いんだけどぉ。 人前で吸うなっての!」

そんな私の隣から彼らを罵倒する友人。
聞こえるよう、わざと声を大きくして……

ちらっと男の子達を見ると、二人の内の一人がそれに対抗するかのように、こちらに向けて煙を吐いていた。

「感じ悪いなお前。 止めとけって」

そうだ。
そう言って、男の子を止めたのが吉見だ。

確か私達の声を聞いてすぐに火を消してくれてた。

でも私、煙草の匂いに気持ち悪くなっちゃって……

『大丈夫~? 夏乃、煙草ダメだもんねぇ』

『夏乃もあいつらに何か言ってやりなよ!』

友人達のヤジは私のせいで、もっと酷くなっちゃって……

何とか止めようと思ったんだ。

「喫煙所で吸ってるんだよ? 文句言う方がおかしいよ」

うん。
そう言った事覚えてる。

「ごめんね。 これ飲んですっきりして」

吉見、アクエリアスをくれたよね?
私、ちゃんと覚えてるよ。


『あ、あんな騒いじゃって、何に惚れたって言うのよ!』

『自分だって気分悪いのに、俺達を庇ってくれたぢゃん』

庇ったなんて、あんなの庇ったうちに入らないよ。
あれは、私達が悪かったんだから。

『恋なんて単純だよ。 そんな小さな事がきっかけになる』

単純すぎるよ、吉見……

『俺はあの日からずっと、夏乃が好きだった』

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