過去作品集○中編

『私は、吉見が嘘ついたことがショックだったよ。 好きになりかけてたのに……』

私、何を言ってるんだろう。
本当は、好きになってしまったのに。

「好き」を先延ばしにしてるみたい……

『好きになりかけてるんじゃ嫌だよ。 本当に好きになってほしい』

吉見が、照れたように笑う。
そんな所が好きなんだ。

優しく笑う所。
誰よりも私をわかってくれる所。

あんなに嫌いだったバニラの香りすら、愛しいと思える。


『ねぇ、俺の事好き?』

意地悪な笑みを見せ、私の答えを待つ。

悔しいけど、吉見が好き。
降参だよ。

『そうだよ。 吉見が好きだから』

『す、素直に言うなって! 照れる』

聞いたくせに何照れてんのよ!!
こっちのが恥ずかしいわ。

と、その時。

《キーンコーンカーンコーン》

『あ、チャイム……』

授業の始まりを告げる鐘が鳴り響いた。

『どうする?』

『どうするって……』

『俺は単位足りてるからサボるけどね』

吉見は手を振って、屋上の奥のドアから見えない位置に移動した。

単位か。
私も足りてるけど……

『わ……私も一緒にいく』

それに、まだ吉見といたい。

『ほら。 早くしないと見回り来るよ』

吉見は優しい笑顔を見せ、大きな手を差し出した。

温かい手。
私の好きな吉見の手だ。




見回りが来ても見つからないよう死角に入り、床に座る。
一安心したように、吉見はポケットから煙草を取り出した。

『見つかっても知らないよ』

『まだ大丈夫だよ。 屋上の見回り最後だから』

そう言うと慣れた手つきで、煙草に火をつける。

ふわっ甘い香り。
アップルミントか……
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