エングラム
「ショパンか、仔犬のワルツとか作った人だよな?」
シイから楽譜を受け取り頷く。
「はい。あと私リストも好きなんですよ」
ショパンの友人でもあるリストはピアノの魔術師。
一時期は指が六本あるんじゃないかとまで言われた。
そんなことを頭の中でもわもわさせていたらシイがへぇと言った。
「リスト、すごいな」
「はいすごいんですよ!今度シイに弾きたいのはショパンですけど」
「聴かせろよ」
シイが私の頭に手を置いた。
それに嬉しくなる。
愛されているということが分かるっていう安心感。
私は練習頑張んきゃと思いながら返事をする。
「夏休みにでも」
「良いな学生は。そっかお前って中学せ──いっ!?」
シイが変な声を出した。
どうしたのと首を傾げた。
そして大人っぽい整った顔を赤く染めて私の肩をガッと掴んだ。
「お前14か!」
「今更なんですか」
冷静に冷静に。
まさかシイが今更、年下だから付き合ってけないなんて言われたら。
顔は冷静、頭の中は台風。
「………」
すかさず読み取っただろうシイは私の顔をじっ、と見てから肩を掴んでいた手を離す。
「すまん」
まさかその謝罪は。