エングラム



たった一人のために世界を変えたいという歌。
壮大なラブソング。

甘い匂いに体温、心地好い低い声は愛を唄う。
信じるしかないじゃない。

シイは英語でそれを歌う。

なんとなく、なんとなくなのだけれど。
歌詞の意味が伝わってきているような感じがした。

数フレーズ甘く歌うとシイがぎゅううっとしてきた。

伝わっただろ?
そう尋ねられたように感じた。
伝わりましたよ。
そう何も言わず伝えた。


どんだけ甘いんだ。溶けちゃいたい。
初めての彼氏がこんなシイなんて、もう誰も見えない。

「嬉しいこと思うじゃないか」

にっ、とシイは笑った。

「読まないでくださいっ!」

「無理だな可愛過ぎる」

あっさり恥ずかしいことを口にするシイには敵わない。



「そろそろ二人も来るからな」

言ってシイは体を離した。

私の疑念などはあの甘さにすっかり溶けていた。やられた。

シイがドラムセットのイスに座り8ビートを刻み始めて、私もベースの準備をする。



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