エングラム
しばらくすると、話し声とともに足音が近づいてきて、ケイとユウが現れた。
「おーっ、ラブラブしてたぁっ?」
「仲が良いことですね」
それぞれそう言って、うるせぇ、とシイは吠えた。
「ユウ、ユウ」
私はユウの黒いジャケットの裾を掴んだ。
「これの編曲お願いできますか」
振り向いたユウに英雄ポロネーズの楽譜を見せた。
ユウはそれを受け取り少し見ると、キツネの目で私を見て言った。
「わかりました、来週渡しますね」
「ありがとうございますっ!」
私が頭を下げると、いえいえ、と続ける。
「四人分ですよね?」
「あ、はい」
みんなと合わせたいという意思を伝える。
「今までケイの趣味のビートルズばかりでしたからね、ショパンとは面白いです」
「えーっ、時々ザ・バンドもやるじゃんっ!」
ユウの背中からひょこっとケイが顔を出して、にこっと天使の笑顔を見せて言う。
「じゃあ今日はザ・バンドの曲からやろう」
天使の笑顔に、ユウは頷いた。
「今回はシランちゃん聴いててねぇ」
少し残念だったが、弾けるわけではないので頷いた。