エングラム
熱い。
夏な上にこの音──熱い。
私を、焦がす。
ベースを走らせきって曲が終わったとき──。
「シランちゃん上手くなったねっ!」
まだ鼓動を伝える黄色いボディーのベースに視線を固定されていたら、ケイが私の顔を覗き込んでそう笑顔を見せた。
「──え、あ、ありがとうございます…ケイ」
うんと頷いたケイの額には髪が張り付いていた。
「熱くなったでしょ?」
それに頷く。
吐いた息が熱っぽい。
「よしじゃあもう一曲いこーっ!」
嬉しそうにケイが声をあげた。
「その前に水分補給ですよ」
ユウが冷静に答えた。
シイと目を合わせた。
彼は少し笑って肩を竦めてみせた。
シイの額や頬にも黒い髪が張り付いていて──なんだか色ッポイ。
「次は何をやりますかねぇ」
ケイにそう言っていたユウは汗ひとつかいてなさそうだった。
金色の髪はサラサラで──彼だけ涼しそうで、何か笑えた。
「熱冷ましでシンプルなのか、熱上がる曲かだねー」
そう言いながらケイは汗をタオルで拭いていた。