エングラム



熱い。
夏な上にこの音──熱い。

私を、焦がす。

ベースを走らせきって曲が終わったとき──。

「シランちゃん上手くなったねっ!」

まだ鼓動を伝える黄色いボディーのベースに視線を固定されていたら、ケイが私の顔を覗き込んでそう笑顔を見せた。

「──え、あ、ありがとうございます…ケイ」

うんと頷いたケイの額には髪が張り付いていた。

「熱くなったでしょ?」

それに頷く。
吐いた息が熱っぽい。

「よしじゃあもう一曲いこーっ!」

嬉しそうにケイが声をあげた。

「その前に水分補給ですよ」

ユウが冷静に答えた。


シイと目を合わせた。
彼は少し笑って肩を竦めてみせた。

シイの額や頬にも黒い髪が張り付いていて──なんだか色ッポイ。

「次は何をやりますかねぇ」

ケイにそう言っていたユウは汗ひとつかいてなさそうだった。

金色の髪はサラサラで──彼だけ涼しそうで、何か笑えた。

「熱冷ましでシンプルなのか、熱上がる曲かだねー」

そう言いながらケイは汗をタオルで拭いていた。



< 142 / 363 >

この作品をシェア

pagetop