エングラム



私も持ってきた荷物の中からタオルを出すと、ドラムセットの真ん中のイスに座るシイに渡した。

「どうぞ」

「ん。ありがとな」

シイはタオルで顔を拭くと──

「ふぎっ」

私の顔をがしがしっと拭いた。
それがいきなりだっから、変な声を出してしまった。

「なんだ今の声」

笑うように目を細めながらシイは私の顔を拭く。

「私そんな汗かいてないですよっ」

自覚してないだけで汗ダラッダラだったら格好悪すぎるけれど。

「スキンシップだ」

あっさりとシイが言って──

「熱いねぇ」
「熱いですねぇ」

ケイとユウが私たちを見ていた。

さっきのシイの言葉で赤く染まった私にシイはタオルを渡すと

「うるせぇ!お前らこそ彼女とラブラブしてんの知ってるぞ!」

「シイみたいに人前ではしませんよ。まぁ私も彼女が一番可愛いですけどね」

にっこりとユウが笑う。


あぁ彼らは本当に男の子だなぁと笑えた。


「彼女自慢は良いからさぁ、やろーよー」

口を尖らせたケイに、ビッとシイがスティックの先を突き付けた。

「僕の彼女が一番可愛いってお前も思ったくせに!」

「あったり前じゃあん」

ケイはベースでどぉんと音を出す。



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