エングラム
頷いて、そのギターをまじまじと見る。
傷ついたボディーに、いくつかの読めないサイン。
これが彼の昔の音。
「どうしてドラムになったんですか?」
「下手だったからだ」
シイがすぱっと答えた。
思うより下手じゃないだろうに…と私が思った時、シイが何も言わずギターをアンプに繋げた。
音量を控えめにしながら、シイはチューニングをさっと済ませる。
そして──音符が空間に待った。
シイが弾いてるのは、クラプトンのレイラのギターリフ。
ユウの超絶ギターの前では上手いとは言い難いが。
うん、これぐらい。みたいな。
下手と言う割にしては上手く、上手いと言うには届かない…みたいな。
シイが手を止めて、顔を上げた。
「向いてないって、もう分かるんだよこれ」
返事に迷っているうちに、シイがギターをスタンドに戻した。
「へぇ、やっぱりドラムが一番しっくりきますか?」
ケースから黄色いボディーのベースを出し、持っていた小型のアンプに繋げる。
ヘッドフォン…はない方が良いか、音をギリギリまで小さくする。
「あぁ今は。ドラムで落ち着いたな」