エングラム



ケイと入れ違いに入ってきたということは、彼にまつわる話題なのだろう。

安易にできた想像に、表情が曇りそうになった。

「ねえ聞いて良い?」

いきなり馴れ馴れしい口調だが、特に気にならなかった。雰囲気だろう。

「惠太くんってどんな感じ?」

「笑ってますが、内心は荒れに荒れてますね」

ユウが立ったまま答えたのは、対等な立場であろうとしたからか。

「そうなんだ。よく分かっている」

距離が近いようだね、と天宮医師が続ける。

「距離が遠い者は、表明でしか人を見ていないからね。それこそいつも笑っている彼には脳天気という印象しか抱かないだろう」

距離が遠い者、人を知ろうとしない者。

「彼は諦め過ぎている。──だから笑っているんだと気付いたよ」

「よく短期間で気付きましたねぇ、天宮さん。彼の本質を」

ユウがくつくつと笑う。
笑うキツネ目は、鋭い。

「リハビリをしようとする意欲が全くない。──もう分かっています無理なんです、それしか言わない」



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