エングラム
「彼は希望の中にいてもその先の絶望を知ってます」
そう言ったユウの足が小刻みに揺れている。苛立ちだろう。
それを表に出すのは、表に出てしまうのは珍しい。
「だが絶望の先に未来があると私は知ってる」
天宮医師は遠くを見るような目で言った。
「あなたは知らないだけです。彼は現在と未来の両方を常に見ていると」
キツネ目は笑っているが、奥には苛立ち。
お互いの正しいことがぶつかった時に感じる独特の苛立ち。
「あなたはケイにリハビリを受けさせたいんですね?」
ユウの口調が少し早い。
「あぁ、そうだ」
対する天宮医師は、どちらかと言えばゆっくりと答える。
「雑談ばかりしてしまいましたね、分かりました」
ユウはそう言う。
「うん、頼む」
天宮医師はそう言うと、手を振ってから病室を出て行こうと扉に手をかけた。
「あ、あの」
私は慌ててその白い背中を呼び止める。
ピタリと動きを止めた背中に声を投げた。
「ケイは、本当にもう指先が…?」
少し、間を開けて。
「可能性は0じゃないんだよ0じゃあ。──難しいだろうねとしか言えないや」
そう言うと、病室の扉を後ろ手で閉めた。
余談だが、無駄に白衣を翻して出て行った。