エングラム
病院の廊下を歩きながら、私とシイは肩を並べて歩く。
話題もなかったため、沈黙に耐え切れず話を切り出す。
「シイたちがいない間、ケイの担当医に会いましたよ」
「黒髪で眼鏡かけた男だろ?」
「それシイにも言える特徴ですよね。──って、知ってるんですか?」
表情の変わらないシイの顔を見た。
「たまたま見た。──学生時代たくさんの女と絡んだタイプだな」
確かにそんな感じだと口元が笑った。
「ケイにリハビリするように言ってと頼まれましたが──」
そこから先を言わず、再び表情を伺う。
シイは、オレの顔ばっか見んな、と私の頭に手を置いた。
「…ケイ、する気はないだろうな」
そうでしょうねと小さく返事をした。
返りのタクシーで交わした言葉は、少なかった。
シイの自宅に戻ると、ゆっくり帰る支度をした。
送るとシイが言ってくれたので、素直に甘えた。
近くの駅から電車に乗り、私の家近くの駅のホームを出ていつも別れを告げる場所にくる。