エングラム



呟いた声と同じように、違和感も、夏も。
きっと消えていくのだろう。


空虚な目まぐるしさに終われる日常。

たまに寂しくなったら、オウ兄だけなんだ、と自分を励ます。

何も変わらない日々だ。




昼休み。私は何か曲を弾くわけでもないのに、毎日音楽室に通った。

教室の騒がしさは眩しくて居られないのだ。


一人で息をしていると、何かが浮かんでは消えていく。だがそれが思い出せない。


ベースやアンプは、とりあえず部屋に置いてある。

母に聞いたところ、夏休みが始まる少し前に背負ってやってきたそうだ。

嬉しそうだったねと笑う母に苦笑しか返せなかった。

「なんでだろ、なー…」

ぼやきながらピアノの鍵盤に触れる。音は出さない。

音楽室の中には私の呼吸だけ。

──違う…私にはオウ兄がいる。それだけで充分!

友達なんか要らないし、こんな私には出来ない。

落ち着かなくなって、無性に音を出したくなる。
心臓を動かす低音が無性に恋しくなった。



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