エングラム
どっかの少女漫画みたいに、誰か現れて私を助けてくれたら良いのに。
ピアノの白と黒の鍵盤を見ながら、溜め息を吐く。
何か弾けば落ち着くかも、と思ったがそんな気分になれない。
私の知らない私。過去の自分。
はぁ、とまた溜め息をついているうちに昼休みが終わった。
教室に戻ると、何故かまた。
男子学級委員長に肩をつつかれた。
「お前、何弾いてたんだよ」
昼休みが終わり授業開始寸前に戻ってきた意味がない。
「…教室まで聞こえましたか…?」
質問には答えず、机で頬杖をついたまま尋ねる。
「用があって……音楽室前まで行ったから…」
目を逸らしながら答える姿を横目に、そうなんですか、と答えた。
一部のクラスメイトが、珍しい組み合わせにチラチラと視線を投げてくる。
だから早く会話を打ち切りたいのだ。
「で、曲はぁ?」
「…英雄ポロネーズです」
「なんでお前敬語なの?同級生じゃん」
会話が終わる気がしない。
タイミング良くチャイムが鳴った。
あ、と彼は声をあげて直ぐに席に戻った。