エングラム



どっかの少女漫画みたいに、誰か現れて私を助けてくれたら良いのに。

ピアノの白と黒の鍵盤を見ながら、溜め息を吐く。


何か弾けば落ち着くかも、と思ったがそんな気分になれない。

私の知らない私。過去の自分。

はぁ、とまた溜め息をついているうちに昼休みが終わった。



教室に戻ると、何故かまた。
男子学級委員長に肩をつつかれた。

「お前、何弾いてたんだよ」

昼休みが終わり授業開始寸前に戻ってきた意味がない。

「…教室まで聞こえましたか…?」

質問には答えず、机で頬杖をついたまま尋ねる。

「用があって……音楽室前まで行ったから…」

目を逸らしながら答える姿を横目に、そうなんですか、と答えた。

一部のクラスメイトが、珍しい組み合わせにチラチラと視線を投げてくる。
だから早く会話を打ち切りたいのだ。

「で、曲はぁ?」

「…英雄ポロネーズです」

「なんでお前敬語なの?同級生じゃん」

会話が終わる気がしない。

タイミング良くチャイムが鳴った。
あ、と彼は声をあげて直ぐに席に戻った。



< 303 / 363 >

この作品をシェア

pagetop