エングラム



スピーカーから流れる曲が変わった。

──トランペット吹きの休日。

お、やる気が上がる曲だななんて。似合わないが思った。

他の選手が走っているのを、順番待ちで見てる時。

走っている姿を馬鹿にされたら嫌だなと不安になったが、スタートラインに立つと。

「シランさーん!頑張れぇ!」

そんな声が聞こえてきたことに、心底安堵した。

クラスメイトたちからの声援を受けるなんて不慣れだと少し思いつつ、腰を少し落とす。

「用意ッ」

短く鋭く高らかに言いながら、知らない教師がピストルを掲げる。

「スタートッ!」

パンと渇いた音を聞いて、私たちはすぐに走り出した。

出だしは快調。インコースぎりぎりを走る。

周りの声援は鮮やか。

100メートルがやけに長い。

一人抜かされた、前に2人。

「シランさん頑張れぇっ!」

ぎりぎりで抜かした。抜かした選手と目が合い、スピードを上げる。

「そのまま走れーっ!」

前に一人。この距離じゃ抜かせない。



< 320 / 363 >

この作品をシェア

pagetop