エングラム
「はいはい、お疲れ様」
そう言って委員長は、自分のジャージのポケットからハンドタオルを出す。
直ぐにそのハンドタオルが私に向けられる。
「ほら」
勿体ない、良いよと手を翳した。
「使えよ。──差し出した側が寂しいだろ」
あぁまた、違和感。
──差し出した手には答えて良いんだぞ、と頭の中で誰かが囁く。
灰色の中。黒髪。
──差し出した側が寂しいからな──
気のせいだろうと頭に軽く触れる。
もし言われていたなら、オウ兄が以前に私に言ったのかも。
「……ありがとう」
そのタオルを受けとった。
うわぁ、これ湿ってる。
汗たっぷり吸い込んだタオルじゃん。
断れないし、実は嬉しいし。
私は若干渇いた部分で額を軽く拭いた。
「ありがとう、ごめんね」
タオルを畳み直し、彼に返した。
「どういたしまして」
彼はタオルを受け取り、ポケットにしまった。
「次の競技なんだったけ」
委員長が言った。
「……なんでしたっけ、ね」
違和感はなんだ。