エングラム



「はいはい、お疲れ様」

そう言って委員長は、自分のジャージのポケットからハンドタオルを出す。

直ぐにそのハンドタオルが私に向けられる。

「ほら」

勿体ない、良いよと手を翳した。

「使えよ。──差し出した側が寂しいだろ」

あぁまた、違和感。

──差し出した手には答えて良いんだぞ、と頭の中で誰かが囁く。

灰色の中。黒髪。

──差し出した側が寂しいからな──

気のせいだろうと頭に軽く触れる。
もし言われていたなら、オウ兄が以前に私に言ったのかも。

「……ありがとう」

そのタオルを受けとった。

うわぁ、これ湿ってる。
汗たっぷり吸い込んだタオルじゃん。

断れないし、実は嬉しいし。

私は若干渇いた部分で額を軽く拭いた。

「ありがとう、ごめんね」

タオルを畳み直し、彼に返した。

「どういたしまして」

彼はタオルを受け取り、ポケットにしまった。

「次の競技なんだったけ」

委員長が言った。

「……なんでしたっけ、ね」


違和感はなんだ。




< 322 / 363 >

この作品をシェア

pagetop