エングラム



「また弾いてよ」

委員長が言った。

「はい。…また」

頷いて目を伏せた。
なんとなく、目を合わせたくなかった。


「じゃあ先戻ってるね」

委員長はピアノから体を離し、ひらりと私に手を振った。

「うん」

そう私が返事をした時に、丁度予鈴が鳴った。

「……」

音楽室の扉の近くで委員長は、早く来いよ、と私に言った。

「…じゃあ今日は」

ここで終わろう。
私は立ち上がりピアノに蓋をする。

カバーも掛けた時には、委員長は出て行ってしまった。

私を待って、扉を開けてくれるなんて紳士でもなければそんな仲でもないのだけれど。
失望にも似たものを覚え、肩を竦めた。

「まぁそんなの慣れてないしね、そゆのに弱いけど」

呟いて、音楽室を出た。

セーラー服の紺色のスカートが揺れる。



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