エングラム
そう圧されて、うん、と一つ返事をし黒板に向かった。
たくさんの文字やイラストを見てから、無難に埋もれるようなメッセージを書いた。
合唱コン頑張るぞと一言だけ。
けど物足りなくなって、付け足す。
《最高の音楽を!》と。
書いたそれを見たら恥ずかしくなったので、やっぱり消そうと黒板消しを手にとった。
「もったねーなー」
委員長の声が突然、私の後ろに掛かった。
「ビックリした。いきなりなんだもん」
「いやお前ビクッともしてないしリアクション薄いしまじで驚いてる?え、何?」
本当に驚いたって。
些細な言動にさえ気を配るようになったのは未だに過去の名残だ。
委員長は短い黒い髪をかいてから、小さく書いた私のそれに目を凝らす。
一重の目を細めて、んん、と唸ってから言った。
「良いじゃん」
直ぐに黒板消しで付け足した一言を消した。
「ちょ、おまっ!何故に消した!?」
委員長は目を丸くして私に突っ込む。
「いや。なんとなく」
飄々と答えて、黒板消しを戻した。