エングラム
「なんとなくで書いたやつなら、なんとなくで消しても一緒じゃん」
私は黒板消しを再び手にとり、ぱふん、と委員長の顔の前で叩いた。
白い粉が舞って、委員長が大きく咳き込む。
「よくもやったな!」
委員長が手で白い煙を払いながら私を睨む。口元は笑ったままだ。
「委員長は書いたの?これ」
学ランに少しついた粉を叩き払う委員長を横目に、黒板を指差して尋ねる。
「書いたよ」
委員長は答えてから、自分で書いたメッセージを指差した。
賑やかな文字や絵に埋もれない、大きく目立つもの。
メッセージも中々素敵だ。
さすが委員長だねと、読んでから私は言った。
「どうも。──そろそろ移動じゃないかなあ」
壁に掛かった時計を見て言った委員長に頷く。
「頑張らなきゃね、最後の合唱コンだし」
何気なく私が言ったそれに、委員長は目を丸くした。
その表情を見て、どうしたの、と聞く。
「あ、いや」
焼けた頬をかいて、少し言葉を選んでから彼は言う。
「お前がそんな風に言うなんて、珍しいっつうかな」