洒落にならない怖い話
漁場へ付いていつものようにイカリを降ろして準備を始めたところ船首前方の10m程先に何かプカプカ浮かんでるのに気付いた。


よく目を凝らして見ると、それは土左衛門だった。


今の世なら大騒ぎになるけどあの頃はホトケさんの数が結構多かったため、それ程大騒ぎすることはなかったと言う。


それにこの地域の漁師の間には水死体を「オエビスサン」といって豊漁をもたらす神様として祀る信仰があり、身元が分からないホトケを引き上げた漁師は村の道の辻に埋めて、その上に塚を立てて弔っていた。


そんなこともあって、祖父はホトケさんを決まり通りに舟の左舷から引き上げる。


見るに耐えない姿で土色でブクブクに膨らんだ体、服もボロボロ。


当然身元など分かるわけがない。


ただ、来ている着物や背丈から言って男のようだ。


さすがにこのままホトケさんを舟にあげたまま漁を続ける訳にはいかないので、港へ帰ることにした


よっこいしょとイカリを舟に引き上げようした。


ところがイカリが重たくてなかなか持ち上がらない。


ここら辺りは砂地なので岩に引っかかることはない。
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