向こう側の自分
家族


 「ただいま……」

 がちゃりと音を立て扉を開けた。玄関は静まり返っている。ただ居間から母の大きくて下品な笑い声が聞こえるだけだ。

 あたしは溜め息を吐いて居間へと顔を出した。母は誰かと電話しながらゲラゲラと笑っており、無論あたしの事なんて眼中にないようだ。

 「……ただいま、お母さん」

 そう言っても母は電話に夢中だ。きっと新しい男とでも楽しく電話でもしているのだろう。呆れたあたしは二階へと上って行った。

 自室へと入るとあたしの部屋なのに何故か妹があたしの部屋のベッドに寝転がって漫画を読んでいた。此れもいつもの事なのだ。あたしは椅子に鞄を下ろして言った。

 「楓……いい加減あたしの部屋で漫画読むの止めてよ。しかもそれあたしの漫画なんだけど」

 楓は寝転んだまま面倒臭そうに返事をした。

 「はあ? 別にいーでしょ。桐は心が狭いなあ。そんなんで器量も悪いんだからお母さんに愛されないんだよ。あたしを見なよ。あたしはお母さんにいい顔してるから可愛がって貰ってるんだよ。桐は馬鹿だねえ」

 そしてクスクスと笑い出した。楓は妹のくせにあたしの事を呼び捨てにする。しかも説教垂れててあたしはこいつが大嫌いだ。自分の妹かと思うと虫唾が走るくらいに。

 「あっそ。あたしはお母さんにヘラヘラ笑って媚売ってるどっかの誰かさんとは違ってプライドが高いですから」

 そう吐き捨てて部屋を出て行った。背後から楓の舌打ちが聞こえた。
< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop