ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




「へえ。言うようになったねえ、『気高き獅子』は」


実に愉快そうに、青い男は口許だけで笑った。


「相手、して貰いたいなあ。……でも残念だけど、今は楽しんでいる時間はない。今度、じっくりお相手願おうじゃないか、気高き獅子」


くつくつ、爽やかさを残したままの邪な笑声。


そして男は立ち上がり、床に転がるバッチを拾うと、纏った青い外套の襟元につけ、壁側に置いていた大きな紙袋を手に抱えた。


あたしとすれ違い様、人差し指の腹であたしの頬を撫でた。


櫂と煌が反応するまでの、本当に刹那の時間ではあったけれど。


「おお、怖い。余裕ないねえ、気高き獅子も暁の狂犬も。そんなことじゃあ、先が思いやられるなあ。

うざったいの嫌いなんだ俺」


一瞬、深い藍色の瞳に狂気が点る。


「ははは、冗談だよ。俺は平和主義者だからね。だからここは、優しいお兄様らしく、可愛い君達にプレゼント遺して、退散してあげるから」


瞬間にして、

嘘くさい爽やかな微笑が戻る。


あたしは…その切り換えポイントがよく判らない。


コロコロと表情を、両極に変える青い男は、胡散臭い音程の鼻唄を歌いながら、ドアノブに手をかけた。


が、不意に動きを止めて櫂を見る。


「あ、そうそう。

再会記念に1つ、いいこと教えてあげるよ」


如何にもわざとらしい。


「血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の実験段階は終わった。ここ数日の内に本格的に動き始めるよ。だから……気をつけて、ね?」


櫂と煌が目を細める。



「元老院の黒の書、

何処にあると思う?」



空気が…張り詰めたものに変わった。
< 105 / 974 >

この作品をシェア

pagetop