ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「へえ。言うようになったねえ、『気高き獅子』は」
実に愉快そうに、青い男は口許だけで笑った。
「相手、して貰いたいなあ。……でも残念だけど、今は楽しんでいる時間はない。今度、じっくりお相手願おうじゃないか、気高き獅子」
くつくつ、爽やかさを残したままの邪な笑声。
そして男は立ち上がり、床に転がるバッチを拾うと、纏った青い外套の襟元につけ、壁側に置いていた大きな紙袋を手に抱えた。
あたしとすれ違い様、人差し指の腹であたしの頬を撫でた。
櫂と煌が反応するまでの、本当に刹那の時間ではあったけれど。
「おお、怖い。余裕ないねえ、気高き獅子も暁の狂犬も。そんなことじゃあ、先が思いやられるなあ。
うざったいの嫌いなんだ俺」
一瞬、深い藍色の瞳に狂気が点る。
「ははは、冗談だよ。俺は平和主義者だからね。だからここは、優しいお兄様らしく、可愛い君達にプレゼント遺して、退散してあげるから」
瞬間にして、
嘘くさい爽やかな微笑が戻る。
あたしは…その切り換えポイントがよく判らない。
コロコロと表情を、両極に変える青い男は、胡散臭い音程の鼻唄を歌いながら、ドアノブに手をかけた。
が、不意に動きを止めて櫂を見る。
「あ、そうそう。
再会記念に1つ、いいこと教えてあげるよ」
如何にもわざとらしい。
「血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の実験段階は終わった。ここ数日の内に本格的に動き始めるよ。だから……気をつけて、ね?」
櫂と煌が目を細める。
「元老院の黒の書、
何処にあると思う?」
空気が…張り詰めたものに変わった。