ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「……! まさか氷皇!」
櫂が顔色を変えて、声を荒げる。
「違う違う。"その件"はノータッチ。
でも君より俺の方が情報は早かったわけだ。……東京が揺らぐよ、気高き獅子。まあそのうち、君も耳にするだろうけどね」
あははは、と男は笑った。
「何せ一筋縄じゃいかない奴らが絡んでいるからね。
判らない? 紫堂の力の"源流"、だよ。
それは…愛おしいほど滑稽だ。
あははははは~」
そして男は、手を振って部屋から出て行った。
やっと。
「……緋影(ひかげ)?」
櫂は、ドアを見つめて呟いた。
「何で緋影が関係あるんだ?」
切れ長の目を僅かに伏せ、眉間に皺を寄せて、やがて櫂はその目を開いた。
「黒の書……緋影…
やはりまた繰り返すつもりか?
今度は……標的は何だ?」
トントンッ。
唐突にノックの音が響いた。
遠慮がちに開いたドアから、この店の店員が顔を出した。
頭には白いウサギ耳が立っている。
勿論、本物ではない。
腕組をして睨み付けた煌に戦(おのの)き、短い悲鳴を上げると…うさぎさんはもう殆ど泣き顔で、青い紙袋を差し出した。
「……何だ、それは」
櫂があたしを未だ抱きとめたまま、顔だけ背後の店員に向けた。
「え、あ、今帰られた青い格好のお客様が、最初に見えられた際に…」
――後で血相変えた男2人が来るから、俺が帰った後女の子に渡してね。
――女の子に汚れた服を着せたまま、平気で帰らせようとする無粋な男達なんだ、あはははは~。
「……ちっ」
櫂の、派手な舌打ちが聞こえた。
そして櫂のその苛立ちの矛先はあたしへ。
「芹霞」
櫂はあたしに向き直る。
「俺…言っただろう、男についていくなと」
そしてあたしの2つのほっぺを、外側に引き延ばしたんだ。
「うにょ…でみょ、じじょうあっれ…」
痛い…。
「事情など却下。死ぬ気で飛んできた俺に、何だ、この耳、この尻尾。
こんなのであいつとじゃれあっていたお前に、言い訳は許さない」
ひいいいいッッ!!!
「いらいいらいいらいッッ!!!
こー、たすけれ~ッッ!!!
こー、こー」
じたばた、じたばた。
"こーこー"と鳴く、新種の動物と化してしまった。