ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




「……あの……」



か細い声が会話に割った。


櫂はあたしのほっぺを摘みながら、不機嫌な顔だけ背後に向けた。


――この猫耳セットは代金請求してね。橙じゃない方に、ね。


追い討ちをかけるような店員の言葉に、櫂から冷気が迸(ほとばし)る。


店員は恐怖に満ちた顔のまま凍死寸前。


駄目だ。

生命維持機能が凍り付いていく。


「ほら、これで足りるだろ」


突如冷気を和らげた暖かな橙色。


煌が自分の長財布を出して、そこからお札を取り出し手渡している。


そして奴は、にかっと笑った。

えらく機嫌がいい。


「なあ櫂、このネコ耳メイド…俺貰っていいだろ?

……。……それとさ、これからもちょっとだけでいいから、また芹霞に着せてみても……」


ぽっと頬を赤らめたのは、

暁の狂犬と呼ばれた大男。


街の怖いお兄さん達も頭を下げる怖い男。


「だ・め・だ!」


櫂の怒鳴り声。


それでも煌は引き下がらず、逆にもじもじして言った。


「じ、じゃあさ、最後に1回でいいから、ネコ耳芹霞をぎゅっ「す・る・な!」


今度はあたしが怒鳴った。

流石に…抵抗出来るよう、櫂はほっぺを解放してくれた。


じんじんするよ…。




「えー」

「えーじゃない。お前、そんなに動物がいいのなら、同類(イヌ)と戯れてろ!」

「えー櫂、ひでえ…」

「酷くない。いいか、煌「……あの」



割って入ったのはまたもや店員の声。

もうこれ以上、櫂を刺激しないで欲しい。

黙っていて欲しい。
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