ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

あたしに絡む魂胆なんて判っている。

あたしが、先輩がどうしても超えることが出来ない男の、幼馴染だからだ。


馬鹿なあたしを使って懐柔しようったって、そうは問屋が卸さない。


「櫂の欠席の隙に、その幼馴染であるあたしを洗脳して桐夏支配しようって無駄です。あたしは唯の幼馴染、影響力はありません。

……ということで、今日もとっぷり日が暮れました。良い子は家に帰りましょう。では」


そう踵を返してドアノブに右手を伸ばした時だった。

僅差で先輩の手が伸び、内側から鍵をかけてしまった。


ガチャガチャ。


当然ドアノブは回らない。


キッと睨み付けて開錠しようとしたあたしの手は、先輩に荒々しく掴まれ、ぐいと身体ごと引き寄せられる。


反動で頬に先輩の胸板がぶつかった。


この先輩は、眉目秀麗な輩が揃う特進科でも、それなりに整った顔をして、それなりにファンがいることは知っている。

特進科で生徒会長をしているくらいだから頭もいいんだろうし、運動も出来るんだろう。


そんな先輩の体温を、間近で感じたものは――

ドキドキよりも先行する不快感だけ。


逃れようと動いたが、なお一層手に力をこめられ、その痛みに顔を顰めてしまう。



「なあ……神崎」



故意的に静められた、堅い先輩の声。

その張り詰めた声音に瞬間的に身が強張った。


「……僕は、あるものを手に入れた。その力があれば、分家だろうと当主の座に着けるだろう。


……だからその時には、


庶民のお前を愛人にでもしてやる」




「……は?」



今…

何を言い出した、この男。
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