ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「今は紫堂が優位でも、この僕が御階堂を継げば形勢は逆転する。あの元老院だって認めざるをえない。それだけの力を手に入れた」


くくく、と冷たく笑う先輩を見て、あたしはこの人が骨の髄までおかしくなったのではないかと、少々心配になった。



「なあ神崎。人は簡単に堕ちるぞ」


「……は?」


「いつ、どこでERRORに転じるか分からない。

この世は愉快な虚構世界(ゲーム)だ」


長い前髪の中から、眼鏡の奥の双眸が不敵に光る。


「永遠に堕ち続けるのが、人の運命」


闇に魅入られた、澱んだ黒の色。 


「だから神崎……」



ざわり、と体の奥で何かがざわめく。


この闇の瞳の奥で、何かが視える。



――……ちゃああん!



闇がざわめいて拡がる。


永久の闇色が


濃厚な闇色が



何よりも近くあたしを……



――霞ちゃん……んじゃ嫌だあ!




バッターンッ



何かが派手に倒れる音がした。






 
「お前……いい加減にしろよ」







強制的に引き戻される、現実の世界。


夕日より鮮やかな、橙(オレンジ)色。



「如月(きさらぎ)……貴様」




先輩の顔が忌々しげに歪み、歯軋りまで聞こえて来る。
< 12 / 974 >

この作品をシェア

pagetop