ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
帰りは…紫堂家お抱えベンツ。
いつの間にやら、櫂が手配していたみたいだけれど、異色の店の前に異質な車が停まるのを見ていれば、自分が異邦人の気分になってくる。
幼馴染みが財閥の御曹司ともなれば、迎車の規模も違うもの。
紫堂財閥特注の黒塗りのベンツは、車体や硝子は防弾処理が施され、戦車並に頑強であるらしい。
運転席と助手席は、後部座席と完全に厚い鉄板で仕切られており、防音設備もある広い後部座席は、さながら密室である。
煌は、既に玲くんから、桜ちゃんと合流するように言われていたらしく、渋々ながら1人品川に向かった。
いつも通りに、あたしは櫂とともに後部座席に乗り込んだ。
ふかふかとした心地よさ。
瞬く間にあたしは眠りについてしまう。
「……ケーキ…もう食べれな……ん?」
夢を見ていたようだ。
目が覚めると、隣にいる櫂の肩に寄りかかり、その肩にべっとりと涎をつけていた。
ふと…目を上げれば、漆黒の瞳と視線がぶつかった。
バツが悪い。
だが櫂はそれに対しては咎めず、代わりにいつの間にかあたしの肩に回していた手を抜き取り、
「なぜぇに!!!?」
あたしの頬をむにゅうと摘んだ。
理不尽だ。
不条理だ。
目覚め早々、あたしのほっぺが何をした!!!
斜めから見下ろされる切れ長の目に、
「こんな警戒心のない眠り見せるのは、これからも俺の前だけにしろよ」
一筋の甘さが横切る。
思わず、吸い込まれそうな――
艶やかな…色気ある眼差し。
これが女泣かせの…"流し目"という奴だろうか。