ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「あんた、5限目終わってから教室に帰らないで何処の居たの? 櫂の護衛?」

「いんや。仕事じゃねえ」


煌は…もう1人の幼馴染である、紫堂の御曹司…紫堂櫂(しどうかい)の護衛役を務めて、8年になる。


意外と勤労少年だ。


その仕事柄、警戒心を露にした独特の攻撃的な雰囲気を醸すから、余計安易に近寄りがたい印象を与える。

実際煌の凄んだ顔は威圧的で、街の怖いお兄様も道譲ってお辞儀してる程。


だが、人に心を許さない煌が、一度警戒心を解いてしまえばそんな空気は一切払拭され、打ち解けた相手には、人懐っこい笑みを見せて親しみやすく接してくる。


「お前…もう食ったのか!!? もう確定だな、よっ、豚芹霞!!!」

「ぶ、豚!!!? 乙女に失礼な!!!」

「あ!!? 俺のバナナ…!!! 返せ、食うな!!! ああ…メインが…!!」


ああ…耳が垂れて落ち込んだ。
 
耳と尻尾を生やした…巨大なオレンジワンコ。


しかしワンコを言うと奴は怒る。


奴が目指すはハードボイルドらしい。


短気で馬鹿で、ちょっと…残念だけれど、気心知れた大好きな幼馴染には変わらない。


「煌が居なかったから女避けの防波堤なくて、クタクタなの。功労賃よ、自分へのご褒美。

で、何処に居たの? 寝てたの?」


「違うって。5限目の体育の帰り、男達に待ち伏せされて因縁つけられてよ。

勝負は早くついても、次から次へとくるから変に手間取っちまってさ。

気づけば授業終わってるから、お前探す羽目になるし。

女達が騒いでいる以上、校内にいるはずだと…ふと嫌な予感に生徒会室行けば、鍵閉まったドアからお前の声するし。

またかとドア蹴り飛ばしたらお前襲われてるし。

本当はあんな男、殴り飛ばしてもまだ足りねえくらいなのに…」


「素人には手を出さない!! あんたは櫂を守る為、手練(プロ)相手の戦場生き抜いてる奴なんだからね? 緋狭(ひさ)姉にも言われてるでしょう?」


「判ってるよ…んなこと。緋狭姉との約束破れば、殺されるから。

前みたいに…両手両足縛られたまま車から投げ出されて、首都高逆行させられたり、

1週間…餌与えられていない猛獣類の檻に放り込まれて、外から鍵かけられたり…

あんな修行なんて、可愛らしく思うことさせられるの必至」


ぶるりと、大きな身体が震えた。
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