ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

眩暈がする。

全くもって容赦ない我が姉。


あたしの親は 8年前交通事故で他界し、7歳年上の姉…神崎緋狭だけが唯一の肉親。


格闘狂の緋狭姉は、両親が死んだ頃、孤児の煌を何処からか連れてきて神崎家に同居させ、渾身の力で鍛え上げ続けている。


元々運動能力が抜群だった煌だから、それに応えられたからよかったものの、もし煌が途中棄権したら、あたしが姉の偏執愛を一身に受けていたかもしれない。

 
愛すべき保護者は――

やる事成す事かなりぶっ飛んでいる。


毎度の彼女の突発的な気紛れは、人を散々振り回すし、何を考えているのか理解に難しい。


煌曰く、緋狭姉の格闘技術は神の域にまで達しているようで。


非常識なあの姉に限っては、そんな話もありなのか。

そんな姉に育てられた煌が普通な訳がない。

煌を普通の括りにして、暴力で抑えきれると見込んだあの会長が、何だか陳腐で滑稽だ。


「完全に先輩、煌を見誤っているわね。煌が本気出したら瞬殺なのに。

ねえ…何であの人、いつもあたしに絡んでくるんだろう。あたしに絡んだってメリットないのにさ…。それにいつも櫂のことばかり…って!!!

もしや…櫂LOVE!!? リアルBL!!?」


「………」


「………。ねえ、考えてみたら、櫂だって、いつもやたらあの会長に絡むよね!!? まさか…両想いだったとか!!!?」


「………」


「櫂ってば、寄る女の子には…"見ない"、"聞かない"、"立ち止まらない"。徹底拒絶。果敢な挑戦者には絶対零度の眼差しをプレゼント。女嫌いの噂まである、完全無愛想の仏頂面…。

……もしかして、もしかするのかな、何か聞いてる、煌? お赤飯炊いた方いいのかな」


尋ねた先は、わざとらしい程大きな溜息をついて、力なく橙色の頭を垂れていた。


「……櫂が溜まらなく切ねえ」


「へ?」


褐色の瞳が、あたしに向き直る。

 

「……あのさー」


両手をズボンのポケットに入れ、言い難そうな口調で呼びかけてくる。


「他の女にはそうでも、お前にだけは態度違うだろ?」


そう口にするのさえ、何だか面白くなさそうな表情。

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