ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「正直僕は記憶が曖昧だ。だけど僕の胸には応急処置の名残がある。うっすらとだけど、芹霞がここまで運んでくれた覚えがある。
恐らく前もって時間を決めて、芹霞は道化師の元へ」
――ぎゃははははは!
「僕が……守り切れていれば……。
"拘り"を捨て、あの力を"攻撃"に転じていれば……」
震える声。
玲は目頭を指で押さえ、小刻みに身体を震わせていた。
「違いますッ、玲様ッ!!
櫂様、私が……私が行かなければ……」
桜の悲鳴。
――お願い、桜ちゃん。コンビニから、月の女神シリーズの化粧水シート買ってきてくれない?
――どうしてもそのシリーズのが欲しいの。桜ちゃんが駄目なら、自分で行ってくる。コンビニすぐそこだし。
「煌、お前は?」
「俺は……」
煌は両手拳を握りしめ、震えていた。
褐色の瞳の先には、崩れたケーキの箱。
とろとろに蕩けた生クリームが漏れている。
「渡し辛くて……
公園で……
今帰ってきて……」
辿々しい言葉。
「……煌」
俺は静かに目を瞑り、そして煌を射貫く。
「芹霞の手紙に、
何故お前の名前だけ書かれていない?」
「!!!!」
びくん、と煌が反応した。
橙色の前髪から除く、煌の野性味溢れる顔は、心が痛む程悲痛さを滲ませるもので、思わず目を背けたくなるけれど。
だけど俺は容赦なく。
「何故……
玲をここに運んだのが芹霞だ?」
「それは……」
掠れた声。
言葉は続かなかった。