ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「正直僕は記憶が曖昧だ。だけど僕の胸には応急処置の名残がある。うっすらとだけど、芹霞がここまで運んでくれた覚えがある。

恐らく前もって時間を決めて、芹霞は道化師の元へ」



――ぎゃははははは!



「僕が……守り切れていれば……。

"拘り"を捨て、あの力を"攻撃"に転じていれば……」



震える声。

玲は目頭を指で押さえ、小刻みに身体を震わせていた。



「違いますッ、玲様ッ!!

櫂様、私が……私が行かなければ……」



桜の悲鳴。


――お願い、桜ちゃん。コンビニから、月の女神シリーズの化粧水シート買ってきてくれない?


――どうしてもそのシリーズのが欲しいの。桜ちゃんが駄目なら、自分で行ってくる。コンビニすぐそこだし。



「煌、お前は?」


「俺は……」


煌は両手拳を握りしめ、震えていた。


褐色の瞳の先には、崩れたケーキの箱。

とろとろに蕩けた生クリームが漏れている。



「渡し辛くて……

公園で……

今帰ってきて……」



辿々しい言葉。




「……煌」



俺は静かに目を瞑り、そして煌を射貫く。




「芹霞の手紙に、


何故お前の名前だけ書かれていない?」



「!!!!」


びくん、と煌が反応した。


橙色の前髪から除く、煌の野性味溢れる顔は、心が痛む程悲痛さを滲ませるもので、思わず目を背けたくなるけれど。


だけど俺は容赦なく。



「何故……

玲をここに運んだのが芹霞だ?」




「それは……」



掠れた声。

言葉は続かなかった。

< 230 / 974 >

この作品をシェア

pagetop