ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「桜は何をしてた?」
突如話を振られた桜の顔は蒼白だった。
「僕が……頼んだ。
櫂に呪詛がかけられていたから、レベル5に引き上げさせてた」
俺は玲に応えず、再び褐色の瞳を捕える。
「煌、お前……何してた?」
「行った……んだ。だけど……」
消え入りそうな小さな声。
苛つく俺は、声を低くさせる。
「煌。俺は言ってるよな、いつもいつも。
一瞬でも躊躇すれば、取り返しのつかない事態になるから、十分気をつけろと」
煌が身震いした。
「玲がやられている状態なら、まして俺も桜も動けないなら、玲を助けるために、芹霞は必ずお前に助けを求めるはずだ。
そのお前が、なぜ道化師の出張りを許した?
お前が駆けつけると判っているならば、いつも通り芹霞はお前だけを信じて待っていたはずだ」
「櫂様、それは私が……」
「お前は黙れッ!!」
俺の一喝で桜は言葉を切った。
「助けるべき優先順位がどうの、護衛だからどうのって言ってるわけじゃない。芹霞だってお前の仕事は理解してる。
その芹霞が、この紙からお前を除けたというのは、」
そして俺はつかつかと煌に歩み寄り、その頬を思い切り殴った。
「お前は芹霞から、
何故『信頼』を奪った!?」
煌の巨体は横に吹っ飛んで、壁に激突した。
「俺の為ではなく――
お前自身の為に!!!
何故直ぐ様芹霞を、玲を助けに行かなかった!?
何を躊躇ったんだ!?」
判っている。
これは八つ当たりだ。
不甲斐ない――
一番に腹を立てているのは、俺自身に向けて。
芹霞の危機に、何故俺は駆けつけられなかった?
何故、紫堂本家に行った?
何故、倒れた?
自分の非力さが口惜しい。
だからこそ――
意識あって動けた煌ならば、
何があっても芹霞を助けて貰いたかった。
煌だからこそ――
無条件で芹霞を守って貰いたかった。
守れると思っていた。
芹霞の心、までも。