ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「悪い、櫂。
俺――
芹霞が好きだ」
泣き出しそうな顔。
「だからといってどうこうする気も、したい気もねえ。
完全一方通行のままでいい。
櫂には隠そうと思ってたけれど、やっぱり隠すことはできねえや。俺、櫂も好きだし、俺のもやもやで櫂の信頼まで無くしちまったら、俺今度こそ立ち直れねえ。
道化師が俺の過去と関わり合い、何より芹霞が俺のせいで奪われたのなら、それを黙って見ていたら俺は――俺を許せねえ」
「それでも――」
「ようやく飼い主に噛みついたか、
――…馬鹿犬」
愉快そうに笑う、艶やかな声がした。
いつみても――
華やかで妖艶な女性だ。
商売女とは比較にならない……匂い立つような色香を放っているのに、それでも安易に近寄れない、凛とした美しさを兼ね備えた女性。
「緋狭姉!」
煌が、驚いた声を出した。
怯えが混ざるのは気のせいか。
襦袢(じゅばん)――
艶めかしく乱れた、和風の下着姿のまま。
ウェーブがかった長い黒髪が、大きくあいた胸元に絡みついている。
よくここまで忍んでこれたと思う。
無論、群がる男には返り討ち――以上にするだろうが。
彼女は隻腕――利き腕たる右手がない。
それでも彼女の弱点にはなりえない。
「久しいのう、坊」
芹霞の姉――神崎緋狭は、
緋色の唇を妖艶に象った。