ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
  
――――――――――――――――――――――――――――……


俺達は居間に移動した。


いつもより乱れている室内を桜と玲が急いで正す。


俺がいつも座るソファにどっしりと腰掛けた緋狭さんは、目の前に一升瓶を置くと、艶かしい足を組む。



しかし何故、緋狭さんは乗り込んできたのだろう。


正直、相手をしている暇はない。

だが、相手をしないといけない人だ。


俺にも、誰にとっても――

それが紅皇たる彼女の存在。



「何か、聞きたそうだな、坊?」


含んだ笑いを見せる。



「聞いてもよろしいので?」

「駄目だ」



緋狭さんはいつもの如く、意地悪そうに笑った。


……もう、慣れた。



玲は台所から、彼女の大好物の酒の肴……玲手作りの山海漬と、人数分の茶の道具を用意して持ってきた。


案の定、緋狭さんは嬉しそうな笑みを浮かべると、それを指で掴んで口に含む。


「なあ玲、嫁に来んか?」


すると玲は苦笑した。


「同じこと言われましたよ、妹さんに」


すると緋狭さんは、そうかと豪快に笑い出した。


「それでお前はどちらの嫁だ? 私か芹霞か」



身を乗り出して、面白そうに尋ねてくる。

判っていて訊いてくる。


「余りに恐れ多くて辞退します」


玲が嘘臭い笑みを浮かべて、返答自体を拒絶した。


「遠慮はするな。荷物まとめてウチに来い。

丁度反抗期の馬鹿犬の部屋が1つ開いている。

あの汚い犬部屋が不服なら、綺麗好きな妹と同室にしてやってもいい。決定権は私にある」


それでも食らいつく彼女の誘惑に、玲は一瞬動きを止め、


「ん………」


考え込む姿勢を見せた。

< 239 / 974 >

この作品をシェア

pagetop