ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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ぎゅるるるる~。



人間というものは、全く不便なもので。

睡眠欲が満たされると、腹が減る。


「こんな状況で、よくそんな腹の音響かせられるな、ぎゃははははは」


陽斗は大笑いするけれど、あたしだって好きでお腹が減るわけじゃない。


大体昨日、朝食兼用の玲くんのおいしい昼食を頂いてから、あたしは何も口にしていない。


ダイエットにはいいけれど、育ち盛りの少女に絶食はきつい。


「食うことでもっと胸も育つなら、いくらでも餌やるぜ?」


言い返したくても、そう言い出す根拠を考えれば、あたしは赤面しながら睨み付けるしかない。


「今更、かよ。ぎゃははははは」


陽斗はずっと笑ってばかりだ。


多分、こいつはかなりの笑い上戸に違いない。

あたしとしては、笑わせているつもりは毛頭無いのだけれど。



「あんたは減らないの、お腹」

「減らねえ」


即答だ。



そして――


「最後に口にしたのは…

何ヶ月前だったかなあ?」



信じられないことをのたまった。



「何ヶ月!? 何時間の間違いじゃなく!?」


「ああ。数ヶ月前、試しに『かっぷらーめん』というもの食ってみたけど、やっぱり味がしなくて不味かった」


「え? もしかしてあのゴミにあった、『こってりとんこつ味噌ら~めん』? あの喉が渇くくらいの濃い味、味しないって!?」


陽斗はこっくり頷いた。


ああ。こいつは。


睡眠欲の他に味覚…もとい食欲もないのなら、本当に本能欠陥症じゃないか。


"ぎゃはぎゃは"が生まれたのは、なるべくして生まれたような気がする。


「………」

「だから、その哀れむような目、やめろって」


笑いの欠片が見えない金色の瞳は、凄むと鋭さを増して、あたしはひきつった。

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