ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
厨房というにはこじんまりとした、いうなれば簡易的なキッチンだった。
広さは3畳くらい。
神崎家の台所くらいの広さだから、さしたる不便さはない。
鍋などの道具も、ガスも水も通っている。
炊飯器の電源を差すとランプがつくし、電気も通っているようだ。
この施設はまだ廃屋ではなかったのか。
「ねえ、ここの水道代とか電気代とか、誰が持つの? 勝手に使って良いの?」
「いいんじゃね? 俺は必要ないけど、結構皆使っていたし」
「皆って? あんた独りでここに居るんじゃなかったの?」
すると陽斗は鼻で笑う。
「昔は…大勢居た」
「今は?」
「知らねえ。目覚めたら誰も居なかった」
陽斗は俯きながら、水道の蛇口を捻って、水を出したり止めたりしている。
「目覚めたって……あんた寝ないんじゃなかったの?」
「俺からは寝ねえ。だけど強制的に寝かされたら、仕方がないだろ?」
「強制的?」
「ああ。目覚めたら誰も居ねえ。俺だけが1人……残ってた」
抑揚がない声音だった。
それは悲哀なのか。
憤りなのか。
「あんた、どれくらい寝てたの?」
陽斗は壁を指さした。
煤汚れたカレンダーがある。
その年号は……
「8年前!?」
ちょっと待て。
「ここにはあんたしか居ないんでしょう?だ としたら、普通に考えて。誰も居ないのに8年間も水道やガスが出るっていうのはおかしいじゃん。出るってことは、誰かがお金を払っているんだよ? 8年も何もしないでいるっていうのは、絶対おかしい」
「いいんだよ、あいつらは金があるから」
あたしは訝しげに目を細める。
「知ってるの、ここのオーナー?」
すると陽斗は嘲るような顔を向けた。
「お前もよく知っているぞ」
「え?」
「紫堂、のだ。
この研究所は」