ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「紫堂って、櫂の紫堂財閥?」
返答の代わりに、険しい顔つきになった。
険しさの向こうにあるのは
――憎悪。
限りなく…深く強い。
「陽斗、紫堂が嫌いなの?」
応答はなかった。
「この研究所と何か関係があるの?」
もし紫堂に眠らされて。
目覚めた時に独りだったら…
いや違う。
孤独や寂寥感を感じても、憎悪には至らない。
憎悪と眠りは直接関係がないだろう。
だとすれば――
「ここ、何を研究して居たの?」
眠りに行き着く過程こそが、憎悪の原因。
しかしその答えをも、陽斗は拒絶した。
憎悪をより一層色濃くさせて。
駄目だ。
今はまだ、陽斗の闇の部分に踏み込めない。
あたしはそう直感する。
そう、今はまだ――。
あたしは溜息をついた。
「数ヶ月前にカップラーメン食べた前って、8年お腹に何も入れて居ないんでしょ? それはあってはいけないよ、生物学上。
……ということで、陽斗と一緒に食べることにした」
「あ?」
完全予想外の言葉だったらしい。
金色の瞳から憎悪は消え、驚愕の光が走る。
口は、ぽかんと開かれたままだ。
「冷蔵庫あるけど……黴臭っ。というか、まだ残って冷凍されているの、8年前のものッ!? 信じられない、先刻ゴミに捨てておけばよかった」
包丁もフライパンや鍋もやかんも、とりあえず調理器具や皿も全部残っている。
ないのは食材だけだ
「さて、陽斗くん」
あたしはにっこりと笑った。
「喜びたまえ。
君の出番だよ?」
陽斗は顔を歪ませて、一歩退いた。