ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
先輩に促され門を潜ったあたしは、『御階堂』という…筆字の、年代を感じさせる古い表札を横目で捕らえる。
偉そうに先頭に立つ先輩を見るからには、先輩縁(ゆかり)の居城なんだろう。
此処は御階堂グループの本拠地なんだろううか。
それにしては寂しい気もするけれど。
老舗の有名旅館のように、大きな玄関を上がる。
駆けつけた給仕を片手で払い、どこまでも不遜な態度であたし達を先導する先輩。
萎びた木の香りと微かにお香の匂い。
騒がしい環境から一変し、静謐な空気が漂う。
ちょっとした異空間に入り込んだような心地がした。
無駄な空間が多い屋敷の中、やけに長い渡り廊下を、暫(しば)し歩かされたような気がする。
連れられた先は和ではなく、洋の一室だった。
客間として機能している部屋なのか、控えめに存在感を主張するアンティーク調の応接セットが、広い空間のど真ん中に佇んでいる。
他の家具は無い。
窓もない、四方壁だ。
この部屋に足を踏み込んだ時、先輩の携帯が鳴り、それに渋い顔をして応答をしていた先輩は、蒼生に何かを耳打ちし、後でまた来ると退室した。
「気にせずくつろいで?」
まるで自分の家の主の如く、主賓位置のソファにふんぞり返って座った蒼生は言った。
だがあたしを始め、煌も陽斗も警戒して立ち竦んだまま動かない。
「……何か言いたそうだね」
にこにこ、にこにこ。
「何であたしが必要なの?」
「何でだろうね?」
にこにこ、にこにこ。
「どうして先輩と組んでるの?」
「どうしてだろうね?」
にこにこ、にこにこ。
「先輩はいい人?」
「どうだろうね?」
にこにこ、にこにこ。
「貴方は悪い人?」
「どうだろうね?」
にこにこ、にこにこ。
「一体何を企んでるの?」
「何だと思う?」
にこにこ、にこにこ。
あたしは大きな溜息をついた。
駄目だ。
答える気、全然ないらしい。