ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
幾分じっとりと汗ばんだ煌の胸板。
やはりいつもより煌の体温が高い。
緋狭姉が外したというものがないからなのだろうか。
今までそんなものつけていたこと自体、あたしは知らなかった。
この暑い時期に、蒸れなかったんだろうか。
別に臭いはしない。
「……人の身体の中で、くんくん嗅ぐな」
不思議だ。
煌が僅かに動いたら、あたしの額に固い何かがあたった。
シャツのボタンらしい。
それをぼんやりと見つめたあたしは、
「ねえ、第2ボタン、どうして色違うの?」
いつも着崩しているから見逃し気味だが、こんなに至近距離にあれば嫌でもボタンの種が違うことがよく判る。
「……煌、彼女出来た?」
「居るわけねえだろッ!!」
「だよね」
「納得されるのもむかつくなッッ!!!」
彼女が居るかと聞いて怒るのは、
煌と…櫂くらいなものだろう。
何て不思議な幼馴染達だ。
「あたし…煌のボタン付け替えた覚えないのに、どうしてそのボタン、違うんだろ?」
首を傾げて訊くあたしに、煌は何を言いたげに口を開きかけたが、やがて片手を顔を覆うと俯いてしまった。
「だから、そんな風に俺を見るなって」
「え?」
「誘うなって」
「え? え?」
全く意味が判らない。
この一方通行の会話に終止符を打つように、煌が大きな溜息をついて話題を変えた。
「……あー、そういえばよー。
玲が…何かボタンをつけたような」
裁縫までやっぱり出来ちゃうんだ、玲くん。
「確か、無線機がどうとか」
無線機?
あたしは身を乗り出してそのボタンを見入った。