ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

「あーあー」


とりあえず、ボタンに声を吹き込みテストしてみた。


「そんなことしなくても、ちゃんとした無線機なんだって」

「本当? 壊れてないの?」


しつこくそうあたしが問うた時。




『芹霞!?』





櫂の声が聞こえた。

幻聴だろうか。



「あれ、櫂の声?」

「だから言っただろう、壊れていねえよ」


ボタンにしか見えないものが本当に無線機で、そこから声が聞こえるなんて。


どんな構造しているんだろう。


ボタンから確かに声が聞こえるんだ。

煌があたしの頬に擦れ合うような至近距離で、言葉を放つ。


「櫂、玲。芹霞は無事だ。心配すんな」


そして本当に嬉しそうに笑った。


「だがよ、諸事情でちょっと帰れなくなっちまった……って、芹霞、今話しているのは俺で、邪魔すんなって……」


人聞きの悪い。

邪魔などしていない。

使えると判ったのなら、あたしだって櫂と話したい。


「あ、櫂。あたしは大丈夫だから。煌もいるし、ちゃんと陽斗と3人で還るから」


絶対帰って見せるから。

 
そんな決意めいた宣言に口を挟んだのは、無線機の向こう側の、嫌に固い玲くんの声。



『芹霞。陽斗って誰?』


「え? 道化師?」


『……事情を説明しろ』


櫂の声、何でそんなに不機嫌なんだろう?


「いやあのね、突然然蒼生がね」


蒼生が出現してあまりに強すぎるから、逃げ出す隙を伺っているんだ。


そう言いたかったのに、


『蒼生!? 『氷皇』だろッ!!?』


な、何!?

声を荒げるなんて玲くんらしくもない。


玲くんまで何!!?

< 363 / 974 >

この作品をシェア

pagetop