ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「あーあー」
とりあえず、ボタンに声を吹き込みテストしてみた。
「そんなことしなくても、ちゃんとした無線機なんだって」
「本当? 壊れてないの?」
しつこくそうあたしが問うた時。
『芹霞!?』
櫂の声が聞こえた。
幻聴だろうか。
「あれ、櫂の声?」
「だから言っただろう、壊れていねえよ」
ボタンにしか見えないものが本当に無線機で、そこから声が聞こえるなんて。
どんな構造しているんだろう。
ボタンから確かに声が聞こえるんだ。
煌があたしの頬に擦れ合うような至近距離で、言葉を放つ。
「櫂、玲。芹霞は無事だ。心配すんな」
そして本当に嬉しそうに笑った。
「だがよ、諸事情でちょっと帰れなくなっちまった……って、芹霞、今話しているのは俺で、邪魔すんなって……」
人聞きの悪い。
邪魔などしていない。
使えると判ったのなら、あたしだって櫂と話したい。
「あ、櫂。あたしは大丈夫だから。煌もいるし、ちゃんと陽斗と3人で還るから」
絶対帰って見せるから。
そんな決意めいた宣言に口を挟んだのは、無線機の向こう側の、嫌に固い玲くんの声。
『芹霞。陽斗って誰?』
「え? 道化師?」
『……事情を説明しろ』
櫂の声、何でそんなに不機嫌なんだろう?
「いやあのね、突然然蒼生がね」
蒼生が出現してあまりに強すぎるから、逃げ出す隙を伺っているんだ。
そう言いたかったのに、
『蒼生!? 『氷皇』だろッ!!?』
な、何!?
声を荒げるなんて玲くんらしくもない。
玲くんまで何!!?