ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「本当のマスター?
面白いことを言うね、気高き獅子は!!」
笑う氷皇の表情は一向に崩れず。
驚きも焦りも、怒りも何もない。
「あんな御階堂如きが元老院の器にないことは、お前だって十分承知知っているだろう。お前を縛る所以は何もないはずだ」
「だって俺、哀しい宮仕えの身だもん」
どこまでも飄々と、尻尾を見せない。
「大方その宮仕えで、御階堂に従っているんだろう、表面上は。お前は用心棒として使われることに甘んじる男ではないはずだ」
「んー、買いかぶりだと思わない、芹霞チャン? 俺ってそんなに凄い奴じゃないよね?」
わざとらしく困ったような表情を作った氷皇は、突然芹霞に話を振った。
芹霞は返答に窮している。
「俺って従順で優しいよね。……ちゃんと陽チャンだって、五体満足で生かしてるし。君が俺に啖呵切るくらいだもの、死ぬほど大切なんでしょ、陽チャンが。彼もいい男だからねえ、惚れちゃった?」
その言葉に――
「!!!!」
俺は凍り付いた。
思わず睨み付けるようにして、芹霞を見てしまう。
「『はるちゃん』って誰だ!?」
荒げた声に、芹霞は少し怯んだ。
「は、はると。……道化師」
――ぎゃはははは。
俺は拳に力を込める。
「そんな処に、そんなものつけるくらいの熱い仲だもんねー、芹霞チャンと陽チャン」
大笑いして氷皇が指差した先は――
「!!!!?」
襟で隠された芹霞の首元。
普通なら、ハイネックのワンピースなんて特段何も思わないのに、その不自然な襟の高さと、目に焼き付く青色。
得体の知れない焦慮感が膨張する。
名前で呼び合う仲。
芹霞が連れて帰りたい男。
「………」
芹霞が首に手をあて、じりと一歩後退した。
まるで…やましいことでもあるかのように。