ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

 玲Side
***************



暴走車から降りた時――

緋狭さんに言われた。


「玲、お前は私と共に来い」


櫂と共に芹霞を迎えに行こうとしていた僕は、突然の緋狭さんの言葉に幾らか顔を顰(しか)めてしまっていたと思う。


僅かに片眉を動かした緋狭さんを見て、はっと思い返し、いつもの微笑を浮かべた。


「理由は何ですか?」


はっきりいって。

その時の僕は、崩壊寸前の防波堤のように、芹霞に焦がれて…会いたくて仕方が無かった。


今まで必死で櫂を止めていたけれど、芹霞を求める心は何一つ変わらない。


宥(なだ)めすかして力尽くで押さえ込んで、強制的に眠らせて。


それでも芹霞を求める櫂の様は、まるで僕自身の姿のようで――

だから尚一層櫂を抑えるしかなかった。



2度目の緋狭さんの電話。



――芹霞は大丈夫だ。だから玲、辛抱しろよ?



もしかすると、僕もまた、無意識に暴走しようとしていたのかもしれない。

櫂が何かを感じ取った"嫌な予感"に些か感化されていた僕は、思った以上に鬩(せめ)ぐ心を、堰き止められない危篤な状態だったのかもしれない。


明らかに僕に向けられた、2度目の電話。


それを櫂に告げるわけにはいかなかった。


緋狭さんはきっと何もかも判っている。



だが――


――横槍が入った。


少し厳しい顔で、ベンツに乗って現れた。


彼女の想定外の事態が起きたらしい。



――御階堂やアオなど、まだ可愛いものよ。



彼女はそう、僕達の不安を煽った。


だからこそ、芹霞救出の任を外した緋狭さんに反発を覚えてしまったんだ。


< 424 / 974 >

この作品をシェア

pagetop