ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
玲Side
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暴走車から降りた時――
緋狭さんに言われた。
「玲、お前は私と共に来い」
櫂と共に芹霞を迎えに行こうとしていた僕は、突然の緋狭さんの言葉に幾らか顔を顰(しか)めてしまっていたと思う。
僅かに片眉を動かした緋狭さんを見て、はっと思い返し、いつもの微笑を浮かべた。
「理由は何ですか?」
はっきりいって。
その時の僕は、崩壊寸前の防波堤のように、芹霞に焦がれて…会いたくて仕方が無かった。
今まで必死で櫂を止めていたけれど、芹霞を求める心は何一つ変わらない。
宥(なだ)めすかして力尽くで押さえ込んで、強制的に眠らせて。
それでも芹霞を求める櫂の様は、まるで僕自身の姿のようで――
だから尚一層櫂を抑えるしかなかった。
2度目の緋狭さんの電話。
――芹霞は大丈夫だ。だから玲、辛抱しろよ?
もしかすると、僕もまた、無意識に暴走しようとしていたのかもしれない。
櫂が何かを感じ取った"嫌な予感"に些か感化されていた僕は、思った以上に鬩(せめ)ぐ心を、堰き止められない危篤な状態だったのかもしれない。
明らかに僕に向けられた、2度目の電話。
それを櫂に告げるわけにはいかなかった。
緋狭さんはきっと何もかも判っている。
だが――
――横槍が入った。
少し厳しい顔で、ベンツに乗って現れた。
彼女の想定外の事態が起きたらしい。
――御階堂やアオなど、まだ可愛いものよ。
彼女はそう、僕達の不安を煽った。
だからこそ、芹霞救出の任を外した緋狭さんに反発を覚えてしまったんだ。