ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




僕は呼吸さえ忘れて。



この…胸に湧き上がる感情を、何て表現していいか判らない。



ただ泣きたかった。


ただ感謝した。




「……ベンツ?」



芹霞は状況が判っていないみたいだ。


「え?」


まだ焦点の合わない目で天井を眺めている。



その呼吸は荒く。


そうだろう。

今の今まで呼吸すら止まっていたのだから。



芹霞が気だるげに僕を見た。



「……ハアッ、ハアッ。

玲くん? 櫂は……?」



ぎゅ、と心臓が締め付けられた。



こんな時に――


櫂の名前を呼ぶなよ。



やるせなかった。



僕は此処に居るのに。


目の前に居るのは僕なのに。


黒い瞳は僕をすり抜けている。



耐えられなかった。

堪らなかった。


だから僕は――



がむしゃらに芹霞を掻き抱いた。


折ってしまいそうな程強く。







僕の身体全体で感じる、生命の温かさに感動する。



今、芹霞が僕の中に居る。


求めて止まない芹霞が僕の中に居る。




僕の――


僕だけの芹霞。


僕だけの可愛いお姫様。



僕だけの……。



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