ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 


「……ふっ」



突然櫂が笑った。


艶やかに――。


最近、櫂が頓(とみ)に見せる色気。


発動のタイミングが掴めない、世の女性なら即KOされる、強力なそのフェロモン。


それを纏って艶かしく笑う櫂の表情に。


ぐらぐら、ぐらぐら頭が揺れた。


目の前で幽かに動く、肌理(きめ)細やかなその首筋。

ちらりと覗く…男の鎖骨のライン。


思わず目を奪われ息苦しくなった。

息が乱れてしまった。



「もっと……だ」



吐息交じりの掠れた声。



「なあ芹霞。


もっと――

もっと――


俺の『男』を感じろよ」



甘い、甘い、甘すぎる。


こんな囁き声、甘すぎる。

そんな甘い瞳、向けないで。


ああ、きっとあたし…

間抜けた不細工面で固まっているだろう。


動けないんだ。



「まだまだ序の口だぞ?

言ったろう、攻めまくるって。


――まだ何も片付いていないけど」



じゃあ早く片付けろ、と言いたい処だけど、片付け終わったら終わったで凄いことになりそうな予感がする。


いうなれば、本能的危機感?



「芹霞……」



頬に添えられていた手が、あたしの喉元に滑り落ちた。


斜めに、至近距離で覗き込んでくる櫂の顔は、あたしの熱が移ったと思うくらい、熱っぽく上気していて。


整いすぎた顔。

さらさらの髪。


ああ、やっぱり櫂は綺麗。


漆黒の瞳は熱に潤んでいて。

艶めいて煌めいていて。



思わず吸い込まれそうになってしまった。



櫂のじっとりと絡みついてくる瞳から、目を逸らすことが出来ない。


波打つ鼓動が口から飛び出そうだ。


咽喉の奥が、乾ききってひりひりする。






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