ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



内容が判らない陽斗の声を耳に入れながら、あたしは…床に落ちていた陽斗の服を着てみる。


………。


凄くぶかぶかだ。


何処をどうみても普通の生地の気がするけれど、本当に特殊加工してあるのだろうか。


あたしは水槽に近寄ってみた。


どうやって中に入るのだろう。


入れる場所は、真上しかなさそうだ。


かなり高い。


部屋をうろうろしていると、簡易梯子を見つけた。

錆びてはいるが、使えないこともなさそうだ。


あたしはそれを水槽の前に置いて上ってみた。


真下に見える水槽は、確かにただの水ではなさそうだ。

手で触れて見ると、粘着力がある。


この中に入れ、というのだろうか。


陽斗は服が濡れるのを気にしていたけれど、あたしとしては髪がべちゃべちゃになる方が気になる。

これでも乙女だし。


 
陽斗はまだ話しているようだ。


時折、怒声も聞こえる。


本当にこの水槽に入れば、声が出るようになるんだろうか。


出来れば入りたくないけれど。


だけど真剣な顔をしてここに連れた陽斗を信じるならば、入るしかないでしょう。



会話はまだまだ続いている。



あんなに喧嘩調子だったのに、電話だと随分と話せるものだ。


一体何を話しているのかは判らないけれど。



あたしは覚悟して、水槽に潜ってみることにした。


片足を縁にかけて恐る恐る――。



「うわッ!! お前何やってるんだ!?」



戻ってきた陽斗の声に驚いて、頭からズボンと水槽に落ちた。


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